岡本 純子コメント ●高市氏総裁選
私は、ここのところの高市氏に対するネット民たちの熱狂ぶりに、ただならぬ空気を感じてきました。ヤフーニュースのコメント欄は、彼女を「救世主」とばかりに崇め奉るコメントであふれかえり、ネットユーザーに聞いた「次の総裁は誰がふさわしいか」というアンケートでは、高市氏がトップに立っています。いわゆる「世論調査」とはまったく異なる温度感なわけですが、8日の立候補表明会見を見て、その違和感が氷解しました。結論から申し上げれば、この方には「人心を容易に操る才がある」ということです。一言で言えば、「トランプ前米大統領と小池百合子東京都知事を足して2で割ったようなコミュ力」ということ。では、高市氏の「コミュ力」5つのポイントについて、詳しく解説しましょう。
高市氏の「コミュ力」5つのポイント
トランプ前大統領の話し方で特徴的だったのは、恐怖など「感情を掻き立てる言葉を多用したこと」でした。人は、とくに「恐怖心」を刺激されると、「心」が動きます。なかでも、保守派はリベラル層に比べて、「脅威に敏感で、恐怖心を覚えやすい」というのは、多くの研究で実証されていますが、トランプ氏はそうした支持者層の特質を理解し、「テロや移民の脅威」を声高に訴えたわけです。高市氏も、「恐怖心を掻き立てるワード」を巧妙にちりばめました。「国防にかかる脅威」「リスク」「災害」のほか「危機管理投資」といった言葉を多用しましたが、とくに力を込めたのが「海外からのサイバー攻撃」でした。細かい数字をそらんじてその激増ぶりを示し、「私たちの生活のあらゆる場面に、その脅威がある」ことを朗々と訴えかけました。
「生命や財産を守りぬけない状況が続いております」「危機的状況」「新たな戦争の対応」などと畳みかける口調は力強く、よどみありませんでした。あえて、隣国の名前を出し、脅威をあおるのではなく、安心・安全を侵す、全国民共通の外敵の存在をさりげなく挙げて、感情をあおる策士ぶりがのぞきます。
2つめのポイントは、「救世主」としてのポジショニングを確立するため、「ある言葉」を多用したことです。
「女性リーダー」の難しい側面を見事に回避
4つめのポイントは、「惜しみなく振りまく『笑顔』」です。
「デュシェンヌ・スマイル」を大きな武器に
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有権者が政治家を選ぶ大きな理由、それは次の2つです。
②私のような人を「理解」し、気にかけているのかどうか?
要するに、「いかに自分の気持ちを代弁してくれているかどうか」。そういった意味で、彼女はそのコア支持者層の思想やイデオロギーに同化し、逡巡なく、「耳障りのいい言葉」を紡ぎます。これは、まさにトランプ氏の手法でした。人は「事実」より、「感情を刺激する言葉」にあっという間に動かされてしまいます。ロジックだけの「政策」は、誇りや怒りといった感情を誘う「思想」や「イデオロギー」にはなかなか勝てません。「美しく、強く、成長する国へ」という情緒的なメッセージは、まさに「コアな支持者層の誇り」をくすぐり、エンパワーする絶妙なメッセージングと言えるでしょう。
「頭のいい人」より「いい気分にする人」が勝つ
コミュニケーションにおいては、「いい人」や「頭のいい人」より、「(聞き手を)いい気分にする人」が結局、勝つものです。自分の思想を肯定し、最高に「いい気分」にしてくれる高市氏に超保守派層が雪崩を打ったように傾倒していくのは、火を見るより明らかです。
支持者層が異様なまでに活気づき、ニュースサイトのコメント欄やソーシャルメディアをジャックし、対抗馬に対する批判も苛烈を極めています。つまり、もはや彼女以外の候補者は「野党」かのような扱いぶり。その声の大きさが、世論に影響を与える可能性はあるかもしれません。
主張はタカ派でも、口調はハト派。エモーショナルな言葉も操る一方、当意即妙に歯切れよく政策を語り、ロジック構築をする力も抜群。そうした戦略性はこれまでの政治家には見られなかった底知れない不気味さを秘めています。メディアも他の候補者も、「泡沫」と見ているようですし、確かに今回の総裁選は難しいかもしれませんが、彼女がその先を見据えていることは間違いないでしょう。見くびるのは早計のような気がします。